昨今では様々な形態の2世帯住宅が見られます。完全に棟を分けた2世帯住宅も増えてきていますが、今回紹介する住宅のように1軒の住宅を階層ごとに子世帯と親世帯に分けたものが主流と言えるでしょう。こういった住宅形態においては特に家族間の関係性、距離感、嗜好などといった要素を建物に落し込んでいく必要があります。シーズ・アーキスタディオ建築設計室による旗竿地に建てられた2世帯住宅をさっそく見てみましょう。
シャープな片流れ屋根と黒の焼杉のサイディングファサードが印象的な住宅です。大きな開口部が道路に面して設けられ、街に対して程よく開放的ですね。一階は完全にバリアフリーでオール引き戸、オール電化にしたりお年寄り世代に配慮した建築計画になっています。
玄関ポーチの脇には ダイニングルームから繋がるウッドデッキと坪庭があり、杉の木肌を転写したコンクリートの塀が程よくプライバシーを保ってくれます。小さいスペースながら室内からは木や植物が眺められ、家族や来客をやさしく迎えてくれそうですね。
親世帯の玄関を入ると正面に造り付けのベンチがあり、その背後の障子を開けると掘りごたつのあるお茶の間が控えています。足の悪いおばあちゃんが出入りしやすいように考えられた間取りです。利便性やコミュニケーションの向上を意識して一歩踏み込んだ計画です。
造付けの書斎スペースと本棚をダイニングの一角に計画しました。空調もルーバーで目隠しすることですっきりとした収納スペースですね。木を使ったオーダーメードのダイニングテーブルや椅子等ナチュラルなインテリアでまとめています。木のぬくもりが広がる空間で子世帯と一緒に楽しいひと時が過ごせそうですね。
前述のお茶の間です。和紙の風合いをもったクロスや明るめの畳が穏やかな表情を作り出す和室です。きっと掘りごたつでおばあちゃんが立ち寄ったお孫さんとおしゃべりしたりするのでしょうか?個性的な障子の桟がモダンな和室を演出しています。
階段の蹴上げにパンチングメタルのように小さな孔が開けられています。背後からの光がほのかに足元を照らしてくれます。木の素材を空間のあちこちにちりばめ、暖かみのある住宅ですね。
道路ファサード側に向って設けられた大開口部のある2階のリビングダイニング空間です。傾斜する天井が空間に変化をもたらし、明るく開放的な生活空間になっています。壁に沿ってキッチンとワークスペースを一列に並べたすっきりとした計画です。軽やかな白木の梁が空間にアクセントを与え、味わいのある木のフローリングと共にナチュラルなインテリアに仕上がっています。
開放的なリビングダイニングから連続して小上がりの畳空間が配置されています。大人数で食事をする際、小上がりも腰掛けに早変わり。連続する梁と階段を隔てる木の格子が空間を柔らかに繋げています。ダイニングのワークスペースのカウンターが延長して和室では座卓として機能します。
暗くなりがちな中廊下にはトップライトを設け、木の化粧梁が空間に奥行きを与えます。右手はプレイルームで、将来は仕切ることで子どもの成長に合った空間作りを可能にします。ほとんど扉や仕切りのない2階部分では、曖昧な「場」を天井や床の高低による目線の変化でさりげなく領域化し、家族間のコミュニケーションや距離感を保つ仕掛けを建築計画に落し込んでいます。